…気がつくと、私は暗闇の中にいた。
しかし、「真っ暗闇」というのとは少し違う。
何故なら周囲には、点のような星がキラキラと輝いていたからだ。
――まるで、宇宙空間のよう。
しかしここが本当の宇宙でないことは自明だった。
普通に息だってできるし、そもそも宇宙には大量の放射線が溢れているわけで…。
「…でも、なんだってこんな所に?」
思わず呟くと、星よりも一際まぶしく輝く「何か」が、目の前に現れた。
――見紛うはずもない。それはかつて、ジュエルモンスターだったジュエル――
『助けて、助けて!』
「ジュエルがしゃべった!?」
驚きのあまり私は思わずあとずさるる。
『キミは誰? お願い――ボクを助けて!』
「ボク」と言ってはいるが女の子の声だった。
「・・・わ、私はあんどうりんご」
『りんご! お願い、ボクを助けて! お願い、ボクを止めて!! お願い、ボクを信じて!!』
「…待って、そんなに色々いっぺんに言われたんじゃ、どうしたら良いか分からないよ。――あなた本当は、どうして欲しいの?」
宝石のまたたきが一瞬、迷う様に明滅した。
『……ボクは、ボクの、本当の望みは――』
――ドシン!!
「いたっ!」
…ベッドから落ちて、私は目を覚ました。
「いたたたたっ…」
思わず頭を撫でる。
そして悟った。
…先ほどまでの光景は、全て夢だったのだと。
それにしては、妙に鮮明な景色だった。
思わず学習机の上に並べたジュエル達を見やる。
しかし勿論、相変わらず無垢に輝くのみで一言も声を発したりはしない。
「…なんだか随分変な夢を見ちゃったな…」
連戦に継ぐ連戦で疲れているのだろうか?
…と、今はそんな事より…。
私は、手元の時計を見た。
「…げっ! もうこんな時間!?」
急いでパジャマから制服に着替え、トーストを口に加え家を飛び出した。
「行ってきま~す!」
…言っておくけど、私はいつも寝坊するわけじゃないよ。
今日は本当に、たまたまこうなっただけ。
ああ、なんか朝から災難だなぁ…トホホ。
「おはよー!」
ギリギリ間に合った私は、吐く息も荒いまま席へと着いた。
「おはよー! りんごちゃんが遅刻ギリギリなんて珍しいね?」
「あはは…まぁね」
隣の席でまぐろ君が笑った。
「珍しいついでに、今日は転校生が来るらしいよ!」
「…へぇ、そんなんだ!?」
それは確かに珍しい。
「うん、二人共女の子らしいよ!」
「どんな子が来るか楽しみだね!」
そう私が発言したのを最後に、
「ほらー、皆席着けー!」
担任の先生(男)が転校生を連れて教室に入って来た。
転校生の内、一人は栗色の髪をした金無垢の瞳の少女。
もう一人は、巨大な一対の目玉が描かれた赤いニット帽を被った金髪の少女だった。
二人共かわいらしい顔付きをしている。
「アルルで~すっ!」
「アミティで~すっ!」
…アルルにアミティ!?
外国人??
見た目も、アルルはともかくアミティの方は欧米人っぽいような気がする。それにしては二人とも日本語ペラペラだけど・・・。
『二人合わせてダブルA!!』
彼女達はお互いの腕を組み合わせて『A』の文字を作った。
…転校初日からなんつーパフォーマンスだ…。
教室中がボーゼンとする中、
「なんか、メッチャテンション高い子達だね☆」
隣でまぐろ君がニヤリと言った。
「あはは、そうだね。…それにあの二人は、元々友達同士だったみたい」
なんにしても楽しそうな子達だ。
担任が二人の紹介を続ける。
「二人共今まで外国にいて、日本に来るのは初めてだそうだ。皆仲良くしてやってくれ」
『は~いっ!』
教室中から返事がした。勿論、私の声も含まれている。
――唐突に、アミティが手を上げた。
「あのね、あたし達本当は、こことは違う世界から来たんだよ! その名もプリンp――もぐっ!」
何か言いかけたアミティを、アルルが止めた。
「もがもがっ?!」
アルルに口を塞がれたアミティは、何か言いたそうにもごもごしている。アルルは苦笑いを浮かべながら、
「みんなー、今アミティが言った事は勿論ただの冗談だから、忘れてねー!!」
・・・あれ? この声・・・どこかで聞いたような・・・?
気のせいかな?
「じゃあ二人共席に着け。アルルはあそこ、アミティはそこだ」
『は~い!』
先生の指示に従い、二人は自分の席へと向かう。
アミティとは離れてしまったけれど、アルルは私の隣(まぐろ君とは反対側の)だった。
「…よろしくね、アルル!」
声を掛けると、アルルは屈託のない顔でニコリと笑った。
「うん、よろしく!」
これが運命の出会いになろうとは、この時の私はまだ、知る由もなかった・・・。