・・・その存在は、幻夢が生んだとある少女の鏡像、あるいは影だった。
幻夢はそこに迷い込んだ者の心の闇を増幅させ、具現化させてしまう「本来なら有り得ない世界」だった。しかし、運悪くそこに迷い込んだその少女に心の闇は存在しなかったが故に、幻夢が生んだ影もまた虚ろな空なのであった。
彼女にできる事はただ、光に満ちたオリジナルを憎み、また空虚な自分を嘆くことだけであった。
「・・・ボクも」
その言葉に、彼女が抱える全ての絶望が詰まっていた。
「・・・ボクも、アルル・・・なのに・・・!!」
彼女はその空の魂を満たす事無く、孤独にさいなまれて消えていくしかなかった。
――そう、次の瞬間、「彼」が現れるまでは――。
「あ~、いたいた、やっと見つけたぁ!!」
闇しかないこの空間に、場違いな程明るい声が響いた。
振り向くとそこには、人型のシルエットを実体化したような男が、そこにいた。
どうやらコレが、その声の持ち主らしい。
「でもやっぱり、キミはこの空間にいたんだね! 『あの子』の言った通りだ!」
『あの子』というのが誰の事なのか彼女には分からなかったが、そんな事はどうでも良かった。
「キミは・・・誰? ボクを、知っているの?」
「もちろん!!」
と影は、この暗闇を照らさんとばかりに明るく笑った。
「ねぇ、ダークアルル!」
彼はシルエットで出来た手を差出し、彼女にこう述べた。
「友達に、なろうよ!!」
――トモダチニナロウヨ――
・・・その言葉は、何も持たず生まれてきた彼女を満たすには、十分過ぎるものだった。
生まれて初めて心に光が灯ったような気がした彼女は、迷うことなくその手を取ったのだった・・・。
「・・・・・・」
「どうしたんだい、DA?」
DAが目を開けるとそこには、心配そうに彼女の顔をのぞき込むエコロの姿があった。
「なんでもないよ。ただ少し・・・キミと出逢ったばかりの頃の事を思い出していたんだ」
「本当にそれだけ? どっか具合悪かったりしない?」
「・・・大丈夫だよ」
全く、彼は心配性だ。と思いつつ、DAもまた自身に残された時間がもうわずかな事を自覚していた。
「無理はしないでよね・・・」
「だから大丈夫だって!」
弱気な彼を励ますように、彼女は努めて明るく言うと、銀色に輝くジュエルをどこからともなく呼び寄せ、魔導力を込めた。
まほうのジュエルは彼女…DA…ダークアルルのイメージ通り、卵へと姿を変えた。
「――さあ、始めよう! 次のゲームを!!」